「おい、望美聞いてるのか?」
「え・・?」
将臣に声をかけられ、望美はぼうっとしていた意識を戻す。
先ほどまで考えごとを彼女はしていた。
しかし、声をかけられてからは何を考えていたか思いだせない。
「ごめん何だっけ?」
「お前な・・」
彼女が横を向くと、将臣は呆れたような顔をする。
望美がごめんごめんと笑うと、将臣は仕方ないと笑った。
これも幼馴染故の甘えだろうなぁと将臣は思った。
「今日の基礎ゼミ、グループワークの話」
「ああ」
望美と将臣は同じ大学に進学していた。
将臣にとっては余裕の学力での通過だったが、望美にとっては入るのが大変だった。
今日は大学に入り1週間が経っていた。
今日は小論文を書くための基礎として、指定された経済学者の資料を集め発表する準備を行なうことになっていた。
「お前俺と一緒でいいだろ?」
「うん」
望美が返事をすると、将臣は微笑んで頭を撫でる。
「もう将臣くんってば!」
せっかくセットしてきた髪を乱され望美は怒る。
「ははは悪い悪い。ほら行くぞ」
将臣は笑顔で片手を差し出す。
「・・うん」
望美はそう言うと、恥ずかしながらも手を握った。
二人は授業のある館へと向かう。
その館に向かうには、途中に校舎には木々が溢れる庭園を通ることになる。
春の庭園には花が鮮やかに咲いていた。
庭園の花の香りが微かに香る。
「ん・・」
望美の目に止まる。
銀色の髪・・。
その人物は木に寄りかかり、気持ちよさそうに寝ていた。
「誰だっけ・・」
どこか懐かしい感じがする。
望美の様子に気がつき、将臣はその視線を辿る。
「知盛じゃねーか」
将臣が声をかけると、知盛と呼ばれた青年は気だるそうに起きこちらを見る。
「有川か・・」
青年はぼそっとした声を出す。
「お前またサボりか」
将臣は苦笑いを浮かべる。
そして、二人は知盛の側によった。
「そのお嬢さんは誰だ?」
彼はちらっと一瞬だけ望美を見る。
手を繋いでいたことを思い出し、恥ずかしくなり手を引っ込めた。
「ああ、こいつは俺の幼馴染の春日望美」
将臣が自己紹介する。
「こんにちは」
望美は会釈した後、知盛を見ると彼は望美を見た。
望美はまじまじと見られることに恥ずかしくなり、瞳を逸らす。
「え〜とこいつは平知盛。一応俺らより上の先輩な」
「一応か・・」
知盛はそういうと、皮肉を籠めた笑みを浮かべる。
もともと人との付き合いかたが大っぴらな将臣らしいと言えばらしい。
「ははは・・。こいつとは飲み会であってな・・」
どうやら大学での友人の飲み会で出会い、将臣とは知り合いになったらしい。
「俺たちは次の授業行くけど、お前も次の授業行けよ」
「・・考慮しておくさ」
知盛は手をひらひらと振る。
これではどちらが年上かわからない状態だ。
将臣は知盛のその行動だけ見ると、望美とともに次の授業に向かった。
授業も終り、昼の時間。
今日は知盛を呼んで、昼食をとろうということになった。
携帯電話で将臣が呼び出し、先にカフェテラスに来ていた。
窓の近くの席に座り、とりあえず知盛を待つことにした。
それまで将臣と今日の授業のことや、友人のこと、譲のことなどを話していた。
「そろそろ来るかな?」
「あいつのことだからまた寝てたりして」
将臣がニヤリと笑う。
望美は先ほどの様子を見てありえるかもと思い、苦笑を浮かべた。
「誰が寝ていると・・」
望美の後ろから知盛が現れ、二人は何事もなかったようにニコリと微笑んだ。
「何でもないぜ」
「そうそう」
「・・まぁいい」
彼はそれだけ言うと空いている席についた。
「何食べる?」
「俺今日はがっつり行きたいからカレー」
「知盛さんは・・?」
「望美こいつは呼び捨てでいいぞ」
苦笑を浮かべながら望美は知盛を見る。
「お任せする・・」
「ははは・。じゃあ、私いってくるね」
望美は財布だけもち、昼食を買いに向かった。
残されたのは将臣と知盛。
「有川・・」
「何だよ」
珍しく知盛の方から話しかけてきたので、不思議そうな顔をした。
将臣は水の入ったグラスを持つ。
「あれはお前の女か・・?」
「ぶっ!」
彼の突拍子の無い質問に、含んだばかりの水を噴出してしまった。
「汚いな・・」
「誰のせいだよ・・」
将臣は急いで口を拭う。
近くにあった、紙ふきんでテーブルについた水も拭った。
「で、どうなんだ・・」
知盛が意地の悪い笑みを浮かべる。
「・・まだ俺の彼女じゃねーよ・・」
どこか拗ねたように将臣は答える。
「まだね・・」
将臣と知盛は望美の方を見た。
どうやらこんでいるらしく、まだ時間がかかりそうだった。
「どうしたんだよお前・・。まさかあいつに惚れたとか悪い冗談じゃないよな・・」
「・・さあな」
わざとらしく含んだ言い方をする。
まさかな・・。
将臣は落ち着くため改めて水を飲んだ。
しばらく沈黙が続き、望美が帰ってくる。
その手には、将臣が頼んだカレーとサンドイッチが2人分。
それにコーラとコーヒーとジュースがあった。
将臣はそれを受け取り、望美とともに配る。
望美は配り終わると席につこうとした。
「あ、福神漬けがねぇー」
配り終わり、それがないことに気がつく。
「ご、ごめん。私とってくる!」
望美が行こうとすると、将臣は望美の肩に手を触れる。
「ああ。いい。俺が取ってくる。先食ってていいから」
それだけ言うと、将臣は福神漬けを取りにいった。
望美は将臣の言った通り先に食べていることにした。
「有川は随分幼馴染殿に甘いものだな・・」
「甘いのかな・・?」
望美自身は何年もこの状態のため、あまり気がつくことはない。
将臣が昔から望美を好きなこともあまり気がついていない節がある。
「ああ十分にな」
そう言うと、知盛は望美をじ〜と見た。
「な、何!」
望美が驚いていると、知盛はニヤリと笑った。
「お前いい瞳をしてるな・・」
「え!」
望美の顔がどんどん真っ赤になっていく。
その様子を知盛は面白そうに見ていた。
「何やってんだお前ら・・」
「あ、将臣くん」
「帰ってきたのか・・」
なんだか楽しそうな様子の二人に(実際は知盛がからかっているだけだが)将臣は面白くないようである。
将臣は席につく。
「将臣くん何か怒ってる・・?」
「別に・・」
その声絶対怒ってるよ・・
長年の経験上、将臣が怒っているのはわかる。
だが、望美のは何に対して怒っているのかがわからない。
そんな様子に知盛は可笑しいのかクッと笑った。
「有川は大事な幼馴染が他の男と喋っているのが気に食わないのだろう・・」
「知盛!」
将臣はキッと知盛を睨んだ。
「余計なこと言うなよ・・」
「お〜怖い怖い」
知盛はそう言いながらも顔は将臣をからかっている。
「有川も油断していると、大事な幼馴染殿を取られるぞ・・」
「うるせー」
彼からの忠告は将臣が一番わかっている。
望美は二人の様子を見ていたが、意味を理解していなかった。
食事の間はなぜだかギクシャクしていて、望美にとって少し居心地が悪かった。
彼女はこれではいけないと思い、何か話題を振ってみた。
「そう言えば二人は飲み会で会ったっていうけどそんなに行ってるの?」
「まぁ、月に1、2回な」
「無理に連れ出すやつがいるのでな・・」
知盛は溜息を漏らす。
「へぇ〜」
「後、バイトが一緒だからな」
「え!」
知盛のバイトしている姿が想像できず、望美は思わず驚いた。
将臣がバイトしている姿は何回か見ているため知っているが、知盛の姿は正直どれも想像できない。
「何か失礼な想像をされているようだが・・」
「あはは・・」
望美は知盛から目を逸らす。
「まぁ、たしかにこいつからは働いている姿は想像できないからな」
将臣は先ほどの仕返しと言わんばかりにニヤリとしている。
しかし、それを知盛はスルーする。
「無視すんなよ・・」
う〜んこれがこの二人なりの友情ってやつなのかな・・?
そう思うと望美はくすっと笑った。
二人は突然望美が笑いだしたので不思議な顔をしていた。
「どうしたんだいきなり笑いだして?」
「なんでもない」
望美が笑うと、二人もつられて笑った。
「あれっ?」
望美が目を覚ますとそこは熊野。
望美は叙々に思い出した。
自分は熊野での怪異を解決する途中休憩していたと。
「お、目を覚ましたか」
横を向くと将臣と知盛がいた。
彼らは望美が起きるまで待っていたらしい。
望美は立ち上がり、二人の腕を掴んだ。
「待たせてごめんね。休憩終り!行こう」
先ほど見たものは夢だった。
だけどあの夢のように皆笑える日常にしたい。
そのために運命を変える。
終り
後書
裏熊野と望美の話です。夢オチかよ!
久しぶりの遙か3です。
ちなみに知盛のバイトは創造できない・・(汗)
また裏熊野望美は書いてみたいです